ととこ部屋
特に何もありません
未来の約束 16(最終話)
「シン君、来て。」
辺りを伺うようして、チェギョンはシンの手を引っ張った。
「どこに行くんだ?」
シンの問いかけは耳に入っていないようだ。
真剣になって、きょろきょろと周りを気にする様子がなんとも可愛い。
「絶対、シン君も気に入るはず・・・ううん・・・見ればわかるわ。」
誰もいないのを確かめると、チェギョンはシンと手をつないだまま、暗い廊下を進んで行った。
ところどころにぼんやりと明かりが灯されただけの道。
「自然のままにが我が国のモットーなの。夜は暗く、空の星を愛でるのよ。」
そう言われれば、廊下の天井は開け放たれ、輝く星がいくつも目に入る。
吹き抜ける風も柔らかく甘い。
「素晴らしい国だな・・・」
金属的で機能的な自分の国との違いを思う。
チェギョンと出会い、いずれはこの国で歴史を刻んでいくことが、シンは嬉しく思えた。
ほどなく、高い楼閣が見えてきた。
なぜか、見たこともないはずなのに、懐かしさを感じる。
そう言えば、チェギョンと見たビジョンの中に、楼閣を見たような気がした。
「ふふっ・・・ここ上ってね。」
チェギョンは、隠されたような位置にある階段を上っていく。
頭の上の扉を開ければ、そこは低い天井の隠れ家のような作りになっていた。
頭を低くして、その場所を進む。
窓際にはめられた格子の窓から、星の明かりが差し込んでいた。
シンはひどく懐かしさを覚えた。
「私・・小さい時のここを見つけて、それからずっとここは私の隠れ家だったの。一番大好きな場所。一人になりたいときや、勉強から逃げ出したときにここに隠れてた。でね・・・・」
チェギョンが嬉しそうに笑う。
「この前、シン君と見たビジョンの中に、シン君の隠れ部屋が見えたの・・・ここと一緒だった。それから・・・小さなクマのぬいぐるみ・・・でしょ!」
「ああ・・・そうか・・・そうだ・・・・確か、アルフレッド!」
シンも思い出していた。
一人になりたいときに上った小さな部屋。
現世ではチェギョンがここを見つけていた。
「不思議だよね。星は巡るけど・・・少しずつ違う。」
「そうだな・・・・思いが変えていくのかもしれないな。」
「そっか・・・・」
窓の星明かりを見つめていると、不思議な気持ちになってくる。
「また会えるよね・・・私たち。」
チェギョンがぽつりと言う。
「ああ・・」
シンが答える。
「会ったら、わかるよね・・・・」
「ああ、きっと・・・」
チェギョンは窓のほうを向き、そっと手を合わせた。
シンは後ろからそんなチェギョンを包み込む。
「どうした?何か願ってるのか・・・」
シンが耳元で問いかける。
「うん・・・絶対にシン君に会えますようにって・・・何度でも、シン君に会いたい・・・」
小さくつぶやくチェギョン。
「大丈夫・・・絶対に見つけるから・・・」
シンはくるりとチェギョンの体を回した。
愛しい笑顔が目の前に来る。
「幸せになろう・・・現世でも、来世でも・・・ずっと未来でも・・」
「うん・・・・」
チェギョンの声はシンの中へと呑み込まれていった。
シンの思いとチェギョンの思いが熱く二人の中を駆け巡った。
10周年のお話・・・ここで終了です。
2500万年後に同じ星が巡って、同じ人にまた会うって
そう話していた二人
本当に会えたらいいなって
そう思ってました。
その時は、ユル君は「また君を探すって」言ってたけど
「逃げて」と言ったチェギョンの言葉の通りに、お邪魔者にしませんでした。
もちろんヒョリンにも邪魔はされたくありませんでした。
どんな世界になっていても、二人が出会うのは運命です。
素敵な男性になったジフニは、シン君とはかなり違う大人な感じです。
でも、シンチェに感じた熱い思いは、ずっと消えることはありません。
ジフニをそっと応援しつつ
こっそり妄想して楽しんで行ければと思います。
全然お話を書けてない現在ですし
今回のお話もあまり推敲もできず、書きっぱなしな感じです。
自分の頭の中を引き出しただけなので、説明不足の独りよがりな感じ満載だなあと思います。
それでも寄ってくださり、コメントくださった皆様、本当にありがとうございます。
最終話は宣言通り、リコメがんばります。
しかし・・・明日より通常営業で仕事ですので、リコメ・・ぼちぼちです。
シンチェの世界を通じて、知り会えた皆様に感謝しつつ
10周年は終了です。
11年目に突入~~~~~
来年もやってるかは、謎です。
そしてしつこく
ジフニの映画が見たいなあ~~~~
未来の約束 15
「馬鹿な・・・継承権を持つ者がいなくなります。」
「シン殿下を、他国に出すなど・・・」
「何の相談もなく・・・」
気弱なユルを排し、シンを次期王座にと目論んでいた大臣たちは、口々に異を唱えた。
しかし、ユルは一歩も引かなかった。
今までのような、気弱さは微塵も感じられない。
「これは、両国の間で決まったことです。まあ、継承権については、私も婚姻を急ぎ、早めに跡継ぎを設けることとしましょう。これでよろしいですね。」
冗談など言うユルではない。
これは、本当なのだと・・・目を合わせた。
「それでは、調印を・・・チェギョン姫よろしいですか?」
「はい、もちろん。」
チェギョンは、ユルと視線を合わせ、それからゆっくりと隣のシンを見た。
少しだけ口角を上げ、がんばれと言っているようだ。
国の未来をかけ、今回の交渉に臨んだ。
思いもよらぬ結果になったが、父はきっと喜んでくれるはずだ。
チェギョンと共に国を支えるパートナーを得たのだから。
チェギョンはずっしりと重い調印書に軽やかにサインを記した。
その隣にユルのサインがすでに記されている。
ユルは、それを確認すると、まだ不満気な表情をしている大臣たちに高く掲げて見せた。
「これにより、両国は未来への新しい関係を築いていく。それは、両国に幸せを運ぶだろう。」
ユルは高らかに宣言をした。
チェギョンが帰国して一か月後
シンたちを乗せたシャトルが滑るように湖面へと降りて行った。
自分の国とは違う、美しい緑が目に飛び込んでくる。
湖の中ほどにあるポートにシャトルが吸い込まれていった。
「ようこそ申国へ、お待ちしておりました。」
出迎えの一行にチェギョンの顔がない。
シンが頭一つ出た状態できょろきょろと周りを探すので、ガンヒョンがすぐに近づいてきた。
「シン殿下・・・姫は王宮で王と一緒にお待ちです。」
「そ・・そうですか・・・・」
あからさまに残念な表情をするので、ガンヒョンは思わずくくくっと下を向いて笑ってしまった。
「これはこれは・・・我が国の殿下を笑うとは・・少し無礼ですね。」
下を向いていたガンヒョンの上から声が降ってくる。
「も・・申し訳ありません・・」
ガンヒョンが頭を下げた声の主は
どこかで聞いたような声の持ち主だ。
ガンヒョンは靴先から、徐々に視線を上げていった。
目に映ったのは、にやにや笑うギョンの顔。
「俺もついてきたよ。おっと・・・後でな・・・殿下は気がはやるようだ。」
久しぶりの再会だというのに、ギョンはくるりと体を回すと、シンの後に続く。
ガンヒョン達もその後ろに慌てて続いた。
王宮で歓迎の言葉を受ける。
チェギョンは目の前にいるというのに、話すこともできない。
シンは堅苦しい一連の行事を忌々しく思いながらも、ぐっと我慢してこなしていった。
全ての行事が終わり、シンは案内された部屋へと向かった。
衣装を脱ぎ捨て、用意されていた部屋着へと着替えると、やっとゆっくりと腰を下ろすことができた。
さて・・・チェギョンに会うには・・・
ガンヒョンに案内を頼まなくては・・そう思った時だった。
――トントンーー
部屋をノックする小さな音
シンは、もしかして・・・
そう思ってドアを開けた。
「来ちゃった・・・へへへ・・・」
会いたくてたまらないチェギョンがそこにいた。
未来の約束 14
そのまま、シンは長い指をチェギョンの頬へとずらす。
両手でチェギョンの頬を包み込んで、ゆっくりと柔らかな唇に自分の唇を近づけていった。
その場所にあるのが自然とでもいうのか
合わされた唇は、二人の心を深くシンクロさせていった。
出会い
悲しみ
想いを近づけ
乗り越えてきた長い時間
2人が離れてしまっても
再び会う 硬い約束
2人の魂は長い時の流れの中で、幾度も巡り合ってきた
そのすべてが駆け巡っていく
チェギョンの瞳からは、止まることなく涙が零れ落ちた
「ユル様・・・・も・・・会うべき人だったんだ。でも・・・私は、逃げてって・・・そうお願いしたの・・・」
シンはチェギョンをゆっくりと抱きしめた。
「ああ・・ユルも、今度は違う人と幸せになりたいと願ったんだろう・・・」
「ヒョリンさんも・・・」
「そうだな。ヒョリンも・・僕の近くにいたが、今度は最初から友だった。」
こくりと、自分も同じ思いだとチェギョンは頷いた。
「ガンヒョンも・・感じていたの・・・会うべき人だって・・」
「ああ・・本当に星は巡るんだな。」
「そう・・・私に星の話をしたのは、シン君だったんだね。」
「そうだな・・・」
シンはもう一度、チェギョンの唇を捉えた。
今度は、今を生きる自分たちの口づけだった。
前世ではなく
これからを生きていく二人の思いが込められた口づけだった。
数日延期された交渉の場には、穏やかな表情のユルが座っていた。
その隣にはシン
周りを取り囲むように大臣級の数十名
ユルが手を挙げると、軽やかな曲に案内されるように、チェギョン一行が姿を現した。
シャトルで到着した時と同じように、先頭に護衛
中央にチェギョン姫
最後尾に、警護の要のガンヒョン
案内を受けてチェギョン一行は静かにユルたちに対峙して座った。
周りの空気が、一気に華やかさを増す。
ユルは立ち上がると、深く深く頭を下げた。
「数度にわたるアクシデントを起こし、ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。今後は、貿易、安全保障、文化交流に至るまで深く絆を深めていくことを約束します。」
ユルの言葉に大きな拍手が沸いた。
「おめでとうございます。ユル様・・・チェギョン様・・・」
大臣の一人が声を上げた。
「しかし・・この度のアクシデントは、両国の絆の深まりを良しとしない者がいることの証となった。厳しく詮索を行うつもりだ。」
ユルの強い言葉に、華やいだ空気が一変する。
「ヒョリンと呼ばれるものが情報を流したと、先日この場で明らかになったではありませんか。ユル様、どういうことですか?」
一番長老格の大臣が問いかける。
「ははは・・・情報を流すということは、流す相手がいるということです。そこをはっきりとさせます。」
普段は、大臣たちにあまり異を唱えないユルだが、穏やかさの中に固い決意が垣間見えた。
ヒョリンを守り抜くと・・・そう、笑顔で話していた。
「また、両国の絆の証として我が国の継承権を持ち私の従兄弟に当たるイ・シンがチェギョン姫と婚姻することとなる。この婚姻により、両国の絆は確かなものとなることでしょう。」
思いもしないユルの言葉に周りのざわめきが波紋のように広がっていった。
未来の約束 13
「チェギョン姫に伝えてくれ。交渉は延期する。」
ユルはシンに向かってそう告げた。
「会議は、延期・・・この場で聞いたことは、決して口にしてはならない。解散だ!」
ユルは警備を解いた。
静かに、ヒョリンのもとに歩み寄る。
ユルは膝を折り、ヒョリンの手を取った。
「行こう・・・二人で、ゆっくりと話してみよう。すまなかった・・・」
ヒョリンは、ユルの手を握り返すと抱えられるようにして立ち上がる。
「シン・・・後は頼む。」
そう伝えたユルの顔には、安堵の表情が浮かんでいた。
なにか・・吹っ切れたような、そんな感じを受ける。
「わかりました、ユル様。」
シンは、部屋を出ていくユルとヒョリンの後ろ姿をじっと見ていた。
想い合う二人・・・
その思いが成就することを願った。
「どうなりましたか?」
離れた控えの間で、チェギョンはシンの帰りを待っていた。
ユルに真実を明かし、許しを請うと言うチェギョンをシンは押しとどめた。
まず先に、事件を引き起こしたヒョリンの件を終わらせたかった。
その後に、自分たちの問題が来る。
シンは、そう言ってチェギョンを引き留めていた。
「事件のことは解決しました。交渉は延期です。しかし・・・」
「しかし?」
「必ず、両国にとって最良の結果が得られると思います。」
シンの声は確信に満ちている。
「交渉が延期なのに・・・それが、なぜ最良なの?」
両国が固く結ばれ、両国の長所と短所を補い合う。
それが今回のチェギョンの使命だ。
「ユル様に、なんといえば・・・国ではお父様もお待ちなのに・・・」
チェギョンの心の不安はまだ消えていなかった。
「チェギョンは・・・ユル様との婚姻を望んでいるのか?」
突然のシンの言葉に、チェギョンの体がびくりと震える。
相手を見極めて・・
その思いでこの国にやってきた。
でも・・・
シンに会ってしまった。
「いいえ・・・あなたに会えたのに・・・・そんな・・・・」
ユルとの婚姻など望むわけがない。
交渉の重要さも理解している。
だけど・・・心は、シンとともにある。
「僕がチェギョンとの婚姻を望めば・・・僕を担ぎ出そうとする輩が蠢き始めるだろう・・・それを先手でつぶす。」
にやりとシンが笑った。
「僕がチェギョンの国に行く。ユル様はそのままこの国の王として、両国の関係を深めていけばいい。どうだ・・名案だろ。」
「シン君が・・私の国に?」
「ああ、婿入りだな・・・いいだろ?」
本当にそうなるなら
シンを見つめるチェギョンの瞳からポロリと涙が落ちる。
「泣くほど、嬉しいんだな。」
シンは指を伸ばして、チェギョンの涙を受け止めた。